年の瀬も押し迫った大晦日の夜、小さな少女が一人、寒空の下でプリペイドSIMを売っていました。SIMが売れなければ父親に叱られるので、すべてを売り切るまでは家には帰れません。しかし、街ゆく人々は、キャリアに縛られているため少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりでした。
夜も更け、少女は少しでも元気をだそうとSIMを端末に入れました。スマホの起動画面の光と共にInstagramを起動したら、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの写真が一つ一つと現れましたが、突然表示されなくなるという不思議な体験をしました。
「速度制限だわ」
天を向くと流れ星が流れ、少女は可愛がってくれたおばあさんが「速度制限はキャリアに大きな負荷がかかっている象徴なのよ」と言ったことを思いだしました。次のSIMを入れてYouTubeを起動すると、そのおばあさんの動画が再生されました。再び速度制限がかかると、おばあさんも消えてしまうことを恐れた少女は慌ててデータ使用量を確認しました。
「もうすぐ速度制限だわ、でも私のスマホはDSDSだったのよね!」
少女は次のSIMを二枚目のSIMスロットに入れると、データ利用先を切り替えました。次から次へと持っているSIMを差し替え、持っていたSIM全てを使い切るとおばあさんの動画は明るい光に包まれ、少女を優しく抱きしめようとしながら天国へと昇っていきました。
新しい年の朝、少女はSIMの切りカスを抱えて幸せそうに微笑みながら眠っていました。目を覚ますとそこは天国ではなく、目の前に大勢の人々が整理券を持って並んでいました。よく見るとみんなDSDSスマホが欲しいと叫んでいます。そのためには自分のSIMの他にもう一枚のSIMが必要です。人々は少女のSIMを求め長い長い行列を作っていたのでした。
「MVNOとMNOは競合するものではないんだわ、共存するものなのね」
少女は来る日も来る日もMVNOのSIMを売り人々を幸せにするのでした。
おしまい。
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